「株式会社 石見銀山生活文化研究所」、またの名を「群言堂」。同社は、島根県の大森町に根を下ろし、現在は洋服だけではなく、飲食や宿泊業も含めた“暮らし”を商品にしています。
1998年にブランド・群言堂を立ち上げて以降、日本全国に約30店舗の直営店・路面店をオープンさせてきました。店舗名は、ブランド名と同じ「群言堂」。……だったのですが、2014年、新ブランド「Gungendo Laboratory」の誕生にあわせ、横文字の「gungendo」を冠した店舗も、新たにオープン。
記念すべきgungendoの初出店は、東京の日本橋にある「COREDO室町3」の2階です。大森町の暮らしを発信するために、今なぜ横文字、そして東京出店……? ぼくらの疑問に、店長の六浦千絵さんは笑って答えてくれました。
横文字の「gungendo」は新しい実験室
── 昨日まで島根の本社の方々にお世話になっていました。広報課の三浦さんは、ここCOREDO室町店のことを「横文字の群言堂」と表現されていて。他の店舗と比べてどんな特徴がありますか?
六浦千絵(以下、六浦) gungendoは、今までのアパレルブランドとしての群言堂から、もう一歩外に足を踏み出したライフスタイルショップです。
これまで群言堂は、島根県にある石見銀山・大森町という、人口わずか400人の小さな町でモノづくりをしながら、その世界観を育んできました。きっと、大森町の中でも尖った存在だったと思います。
── 尖っているって、六浦さんから聞くとは。びっくりしました(笑)。
六浦 うふふ。群言堂という存在は、悪く言えば外部から見ると「一体あの会社は何をしているの?」と思われてもおかしくない、ちょっと物々しい雰囲気を醸していることもあると思います。
── 世界観ができあがっていると感じます。
六浦 そうですね。gungendo COREDO室町店は、今までの群言堂よりも外に開かれていて、敷居が下がり、よりフラットになった場所だと思います。会長(松場大吉さん)も所長(松場登美さん)も自分たちの暮らしを発信するにあたって、入り口が広くて多くの方に来てもらえるような場所にしたいと考えています。
── 「Gungendo Laboratory」や「根々」など、若い世代向けのブランドの商品を前面に陳列している印象があります。
六浦 店舗スタッフの中心が20代〜30代ということもあり、次世代を意識した店づくりをしています。
── やっぱり。世代交代を意識して生まれたのがGungendo Laboratoryや横文字のgungendoさんだと思うので、このお店が生まれたということ自体、組織として次の段階へ入った証拠のような気がします。
六浦 そうですね。COREDO室町店はGungendo Laboratoryが設立したのと同時期に、いろんなことを試す場として生まれた、まさに群言堂の実験室。芯には「日本」や「暮らし」があるにせよ、今までの群言堂の商品もちょっと違う見え方にして、お客さまの反応を見てみたいと思っています。
太陽と一緒に生活して、おいしいご飯を食べる暮らしがしたい
── 六浦さんが店長になるまでのお話も聞きたいです。群言堂に入社したのはいつのことですか?
六浦 群言堂には2011年の8月に、西荻窪の「Re:gendo」(りげんどう)のオープンとともに入りました。
── Re:gendoは飲食店ですよね。食に興味を持ったきっかけというのは?
六浦 前職の広告の制作会社では昼夜問わずの仕事だったので、身体に不調をきたしてしまっていて……。次に働くなら、太陽と一緒に生活して、おいしいご飯が食べれられるような仕事がしたいと思ったんです。私は単純なので、ご飯処でお仕事をしようと決めて、退職して次の仕事を探していました。
── 群言堂のことを以前から知っていたのではなく、偶然の出会いですか?
六浦 はい。たまたま求人を見つけて行ってみたら、古い建物のなかに、初代店長の松場忠がいて、面接してもらいました。レストランなのにヒゲのお兄さんがいたのが驚きで(笑)。最初はアルバイトとして入って、途中から社員として雇ってもらいました。
── そうだったんですね。
六浦 働いている最中に、群言堂の本社が島根県の石見銀山にあると知って、無意識に今までの自分の興味と繋がっている場を選んだのかなと感じました。学生時代は古い町並に興味があって、ヨーロッパのことを勉強したり遊びに行ったりしていたので。
そのうちに本拠地の島根県・石見銀山のことをもっと知りたくなった。会長にそれを伝えたら、1年間、島根で仕事をしながら住まわせてもらうことになったんです。
── Re:gendoで働いて、大森町で1年間暮らして、現在はCOREDO室町店のgungendoに移ったという流れですね。現在の店舗は、どんな体制ですか?
六浦 お店は4名で運営しています。4人中3人が石見銀山・大森町での暮らしの経験者で、しかも同じタイミングで群言堂に入社しているんです。
Re:gendoから大森町の本店に異動し、1年働きました。永田というスタッフは同じ時期に他郷阿部家で1年間、沖というスタッフは本社のGungendo Laboratoryのチームで働いていた。私たち3人は、大森にある同じ女子寮で暮らしていたこともあります(笑)。
そのあと私が東京に戻ることになって、ひとりは東京の高尾へ。ひとりは島根の本社に残りました。3人で一緒にいるのは1年間だけだと思っていたのですが、あれよあれよという間に、日本橋で再会することになったんです。
── 珍しいけれど、それも縁と思えますね。
── みなさんの異動だけではなく、島根の本店カフェのリニューアルや、鄙舎(大森にある本社横の古民家)の茅葺き屋根の修繕や、公式サイトのリニューアルなどで動かれていて。ちょうど今、変化の時期なんですね。
六浦 そんなに、いろんなことができるほど貯金があったのかなと思っちゃうんですけどね(笑)。
でも自分たちががんばって稼いだお金が、大森の建物や景観を整えることに使われていくのは、すごくおもしろいし、賛同します。そのために働いていると思うのって、気持ちがいいんですよ。
── そうなんですね。どういう気持ちなのかなって、じつは思っていました。だって、茅葺き屋根の修繕費が、そのまま社員のボーナスになったかもしれない、という考え方も世の中にはありますよね。
六浦 稼いだ分がお金として私たちに返ってくるよりは、「あそこの家が1軒再生したんだよ」って言われる方がおもしろいなと思っています。結果的に建物があると人が集まりやすくなりますし、輪が広がっていく気がして。
空気の流れを変えて、商品を手に取ってもらう
── 店内の商品のことも教えてください。根々とGungendo Laboratoryの洋服、それから雑貨が並んでいますね。よく手に取ってもらえる商品ってあるんですか?
六浦 商品の人気は、配置で調整できます。ただ、棚にほこりが溜まっていると、お客さまは触れたくないですよね。動いてない商品があったら、拭いたりとか位置を入れ替えたりするだけでも、手に取ってもらえるようになります。
── 些細なことだけど、大切なことですね。
六浦 そうすることで、空気の流れが変わるんだと思います。本店や他郷阿部家で学んだのは、よく拭き掃除をすること。ガラスが淀んでいたり手垢で濁っていたりすると、商品は孤立します。だから磨いて光沢をだす。モノにも「心があるのかなあ」って思いますね。
── そういう感覚って、群言堂に勤める前からあったものですか?
六浦 ありませんでしたね。テクノなものばかりに夢中になっていたので(笑)。
昔は、ある商品に興味がわいても「モノを取り巻く空間が私の興味をかきたてている」ということに気が付かなかったです。今はお店で日々実験しているから、ひとの関心を喚起させるのは空間の力だったのだ、と納得いくようになりました。
暮らす町を好きになってもらいたい
── gungendoに来てくれるお客さまに、六浦さんは何を伝えたいですか?
六浦 私たちが大事にしている石見銀山・大森町での暮らしを発信することで、自分の出身地や住んでいる町も好きになってもらえたらいいなと思っています。うちは全国の雑貨を扱っているので、お客さまの出身地のものが置いてあることもあります。お客さまは地元でつくられた商品を見つけると、誇りに思ってくれるんです。
── 編集長の佐野は、出身地の新潟が出たくて上京したらしいのですが、全国の方々のお話を聞ける仕事をしてみて、自分の地元ってすごいなと思えるようになったそうです。
六浦 そう、その感じ。みなさんほくほくして帰っていく。ここに来て、地元を再発見してもらえたら。
以前は東京に里心など抱いていませんでしたが、大森から東京に戻って初めて「私が住んでいるのは東京だから、この町に責任を持たないといけないなあ」と思って。町を好きになりたくて、東京の古地図と今の地図を重ねて見ながら町を歩くこともあります。
土地が持つ空気って、過去に準じて決まるような気がします。たとえば、なんとなく雰囲気が淀んでいるなと感じたところは、古地図で見ると昔は小さな用水路があったり、ちょっと小高くなっている見晴らしの良い気持ちがいい場所は、かつて大名屋敷やお寺があったり。
地図を見ながら歩いて、東京という町がどうやって形作られてきたのか探るのが楽しいです。gungendo COREDO室町店は、日本橋にありますから、この地域のことをもっと知って、お客さまに伝えられるコンシェルジュみたいになれたら、すてきだなあと思いますね。
── 石見銀山・大森町の暮らしをいいと思うひとが群言堂の商品を買ってくれるのも嬉しいけど、なにも考えずに来て「こういう暮らしがいいな」と思ってくれたら、それがいい。ひとそれぞれの心地よい暮らしの入り口を見つける場所としても、gungendoというお店はあるんですね。
六浦 そうですね。いい食事をすると、家に帰ってもちゃんと料理をして丁寧に暮らそうと思う、その感じに似ています。
この店に来て何か手に取ってもらうことで、所作が綺麗になったり、自宅の家具を磨いてくれたり、暮らしの刺激になってくれたらいいなと。私たちの接客から、そのひとらしい暮らしを感じ、近づいてもらえたら嬉しいです。
お話をうかがったひと
六浦 千絵(むつうら ちえ)
gungendo COREDO室町店店長。幼少期を神奈川で過ごし、都内私立大学仏文科入学と同時に東京へ転居。長年、街暮らしだったため、アリさえ触れなかった大の昆虫嫌いを1年間の大森町生活で克服。近年の趣味はぬか漬けと、東京都内の町歩き。
このお店のこと
gungendo COREDO室町店
住所:東京都中央区日本橋室町1-5-5 COREDO室町3 2F
電話番号:03-6262-3161
営業時間:10:00~21:00
定休日:なし
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